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横浜地方裁判所川崎支部 昭和48年(ワ)324号 判決

主文

1  原告が別紙物品目録記載の豚肉の換価代金(別紙銀行預金目録記載の定期預金)につき所有権を有することを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告―主文同旨。

二、被告―請求棄却、訴訟費用は原告負担。

第二、当事者の主張

一、原告の請求の原因

(売買による所有権取得)

1 原告は昭和四八年五月八日訴外有限会社スギヤマ商店(以下スギヤマ商店という)との間で、原告がスギヤマ商店から別紙物品目録記載の豚肉(以下本件豚肉という)を代金一、九二三万九、〇〇〇円で買受ける旨の売買契約を締結し、本件豚肉の所有権を取得したものである。

2 なお、本件豚肉はもと訴外三幸国際貿易株式会社(以下三幸国際という)が米国コロラド州デンバー市所在の訴外シグマン・ミート・カンパニー・インコーポレイテツド(以下シグマン・ミートという)から買受け輸入し、本件豚肉をシグマン・ミートの委託をうけて海上運送した被告から船荷証券に代る荷渡指図書の発行をうけて、これにより本件豚肉を横浜埠頭において引取り所有権を取得し、そして、スギヤマ商店は三幸国際から本件豚肉を買受けて所有権を取得し、次いで、スギヤマ商店が前記のとおり原告と売買契約を締結したものである。

(即時取得による所有権取得)

3 仮に原告の前主である三幸国際ないしはスギヤマ商店が本件豚肉に対し、何等の処分権限を有せず、いわゆる無権利者であつたとしても、原告は以下のとおり即時取得により本件豚肉の所有権を取得したものである。

(スギヤマ商店の即時取得による所有権取得)

(1) 三幸国際はいわゆる保証渡しにより被告からその発行にかかる昭和四八年五月一六日付荷渡指図書の交付をうけ、そのころ右荷渡指図書により横浜港埠頭において本件豚肉の引渡しをうけて、これを占有するに至つた。

(2) しかして、三幸国際はスギヤマ商店との間で、本件豚肉を売渡す旨の売買契約を締結し、スギヤマ商店は三幸国際の委託をうけた荷役業者である訴外株式会社二葉組回漕店(以下二葉組という)を介して本件豚肉の現実の引渡しをうけて、これを倉庫業者である訴外東洋水産株式会社(以下東洋水産という)に寄託するところとなり、東洋水産の川崎倉庫に搬入して保管するところとなつた。その経過を詳述すれば以下のとおりである。すなわち、前述してきた本件豚肉の横浜港埠頭における引渡しおよび東洋水産川崎倉庫への搬入は、三幸国際の委託をうけた二葉組がすべて担当したものであるが、これに先立ち三幸国際は二葉組に対し、本件豚肉をスギヤマ商店に引渡すよう指示した昭和四八年五月二日付荷渡指図書を交付しており、右交付にあたり三幸国際、スギヤマ商店、二葉組三者間で本件豚肉のスギヤマ商店への引渡しは京浜地区の冷凍保税倉庫においてなす旨の合意ができていたところ(そのころ、京浜地区の冷凍倉庫が満杯の状態であつたため、倉庫業者を特定することができなかつた)、二葉組は右合意に基づき前記のとおり東洋水産川崎倉庫に本件豚肉を搬入し、その際、右荷渡指図書(二葉組に対する本件豚肉をスギヤマ商店に引渡すよう指示したもの)を東洋水産に交付した。ところで、本件豚肉は未通関の輸入貨物であるから、東洋水産はその寄託者名義を一旦は輸入者である三幸国際としたが、右荷渡指図書の交付により直ちにスギヤマ商店に名義変更すべきであつたところ、事を明確にするため三幸国際は改めて東洋水産に対し、本件豚肉をスギヤマ商店に引渡すよう指示した荷渡指図書を再発行してこれを交付し、これに基づき東洋水産は寄託者名義をスギヤマ商店に変更したものである。以上は輸入貨物であることおよび名義変更手続を明確にするためになされたものに過ぎず、実質はスギヤマ商店が当初から本件豚肉を東洋水産に寄託したものであるから、スギヤマ商店は右寄託に先立ち二葉組を介して本件豚肉を三幸国際から現実の引渡しをうけたものである。

(3) 仮に右の現実の引渡しが是認されないとしても、東洋水産が三幸国際から交付された荷渡指図書により寄託者名義をスギヤマ商店に変更したことは、寄託者が三幸国際からスギヤマ商店に変つたものであつて、以後受寄者である東洋水産はスギヤマ商店のため本件豚肉を保管するに至つたものであるから、右荷渡指図書に基づく寄託者の変更は、本件豚肉につき指図による占有移転がなされたものというべきである。すなわち、右荷渡指図書の具体的な方式を詳述すれば、寄託者(三幸国際)は荷渡指図書を正本および副本の二通発行し、正本を受寄者(東洋水産)に郵送または持参して交付し、副本は買主(スギヤマ商店)に交付するものであつて、右正本を受理した受寄者は被指図人を確認したうえ、同人を新荷主として寄託者名義を変更し、従前の寄託者との間の寄託契約はその時点で終了し、新名義人との間で新たに寄託契約が成立するものである。従つて、旧寄託者は寄託者としての地位を失う結果、既になした荷渡指図を撤回することはできず、寄託物を旧寄託者に戻す必要が生じたときは、新寄託者から受寄者に対し、旧寄託者を被指図人とする荷渡指図書を交付する方法によつていたものである。しかして、以上のような荷渡指図書の方式、取扱いは本件当時、京浜地区の冷蔵庫業界において商慣習として定着していたものである。

(4) しかるところ、スギヤマ商店は三幸国際がいわゆる保証渡しにより本件豚肉の占有を取得したため、本件豚肉の所有権をいまだ取得していないことを全く知らず、かつ、これが事情を知らないことにつき過失がなかつたものである。

(5) 以上によりスギヤマ商店は即時取得により本件豚肉の所有権を取得したところ、その後原告は前記のとおりスギヤマ商店から本件豚肉を買受け、即時取得にかかる所有権を承継して取得したものである。

(原告の即時取得による所有権取得)

(6) 仮にスギヤマ商店の即時取得による所有権取得が理由がなく、スギヤマ商店も無権利者であつたとしても、原告は前記のとおり昭和四八年五月八日スギヤマ商店から本件豚肉を代金一、九二三万九、〇〇〇円で買受けたところ、スギヤマ商店は前述したとおり三幸国際から現実の引渡しないしは指図による占有移転により本件豚肉に対する占有を取得したうえ、さらに同年五月三〇日受寄者である東洋水産に対し、本件豚肉を原告に引渡すよう指示した荷渡指図書を交付し、その結果、東洋水産は右荷渡指図書に基づき本件豚肉の寄託者名義をスギヤマ商店から原告に変更し、以後原告のため本件豚肉を保管するに至つたので、原告は指図による占有移転により本件豚肉の占有を取得したところ、スギヤマ商店が無権利者であつたことにつき善意であり、かつ、これが善意につき過失がなかつたものであるから、即時取得により本件豚肉の所有権を取得したものである。しかして、右荷渡指図書の方式および取扱いならびにそれが商慣習として定着していたことについては、三幸国際からスギヤマ商店への占有移転の際と同様であるから、先の主張を援用するところ、なお、原告は本件豚肉と共に買受けたボストンバッド肉(右荷渡指図書に本件豚肉と共に記載されていた)を早急に倉出しする必要があつたため、スギヤマ商店から右荷渡指図書の正、副二通の交付をうけ、正本をスギヤマ商店の使者として東洋水産川崎倉庫に直接手交するとともに、原告が東洋水産川崎倉庫と従前取引がなかつたので、その際、副本も同時に呈示して買受人に相違ないことの照合確認をうけたうえ、五月三〇日付で寄託者名義を原告に変更して貰い、ここにおいて原告と東洋水産間に本件豚肉につき新たに寄託契約が成立したものである。

(被告の本件豚肉に対する所有権の主張と本件豚肉の換価処分について)

4 ところで、本件豚肉が東洋水産の川崎倉庫に在庫中、被告は本件豚肉つき所有権を有する旨主張し、これが主張を内容とし、三幸国際および東洋水産を債務者とする東京地方裁判所昭和四八年(ヨ)第五九一八号動産仮処分申請事件を提起し、昭和四八年九月一九日同裁判所から、本件豚肉につき、三幸国際に対する譲渡質権の設定その他一切の処分を禁止する旨の、東洋水産に対するその占有を解いて横浜地方裁判所川崎支部執行官に保管させる旨の各仮処分決定をえて、同月二〇日右仮処分執行を了していたが、その後本訴係属後の昭和四九年一〇月二一日に至り原、被告および東洋水産の三者間において、本件豚肉を金二、〇五四万五、八〇〇円で原告に売却し、原告は右代金のうちから本件豚肉を内国貨物とするに要した差額関税金三四一万三、四〇〇円を差引いた金一、七一三万二、四〇〇円を本件豚肉の換価代金として支払うこととし、東洋水産の代理人である訴外弁護士山田直大に対し、訴外株式会社東食振出、原告裏書、振出日後九〇日先が満期である約束手形で右代金を支払うものとし、右山田直大において右手形金受領後、これを本件豚肉の換価代金として本件訴訟の解決するまで定期預金(期間六ケ月、解決まで順次更新する)として保管することの合意ができ、右合意に基づき本件豚肉および右約束手形の授受を了し、山田直大は右手形の満期日である昭和五〇年一月一三日に支払われた金一、七一三万二、四〇〇円を右同日別紙銀行預金目録記載のとおり株式会社三井銀行本店に山田直大名義で定期預金にして保管した。

(結論)

5 以上の次第で原告は本件豚肉(右換価後はその換価代金)の所有権を有するところ、被告がこれを争うので、これが確認を求めて本訴に及んだ。

二、右に対する被告の認否

1  請求の原因1項および2項の各事実は、そのうち三幸国際が本件豚肉をシグマン・ミートから買入れ輸入したこと、そして、海上運送人である被告から荷渡指図書の発行をうけて本件豚肉の引渡しをうけたとの点はいずれも認めるが、三幸国際が本件物品の所有権を取得したとの点は否認し、その余の三幸国際、スギヤマ商店および原告と順次売買されたとの点はいずれも不知、いずれにせよ前主である三幸国際が所有権を取得していない以上、スギヤマ商店および原告が所有権を取得したとの点はすべて争う。すなわち、シグマン・ミートと三幸国際間の本件豚肉の取引条件は三幸国際において売買代金を決済後、本件豚肉につき発行された船荷証券を取得し、本件豚肉の所有権を取得するものであつたが、三幸国際は昭和四八年五月一六日本件豚肉の海上運送人である被告に対し、船荷証券の到達が遅れていることを理由に本件豚肉をいわゆる保証渡しすることを懇請し、被告は船荷証券が到達次第直ちに売買代金を決済して船荷証券を取得してこれを被告に交付するとの三幸国際の説明を信頼して、前記のとおり荷渡指図書を発行して交付したため、三幸国際はこれにより本件豚肉の引渡しをうけて東洋水産の川崎工場内冷凍室に保管したものであるところ、三幸国際はその後再三にわたるシグマン・ミートおよび被告の請求にも拘らず売買代金の決済をせず、船荷証券を取得することがなく、従つて、本件豚肉の所有権を取得することができなかつたものである。被告は保証渡しをした責任を負い、シグマン・ミートに対し代金相当額の損害を賠償して本件豚肉の船荷証券を取得し、かつ、その所有権も取得したものである。

2  請求の原因3項の各事実は、そのうち(1)の事実を認め、その余の各事実はすべて不知。仮に原告主張の(3)ないし(6)の各事実が認められるとしても即時取得の効果は争う。すなわち、原告主張の荷渡指図書は受寄者に対する免責証券としての意味しか持ちえないことは、すでに判例の確定しているところであつて、従つて、本件豚肉に対する占有移転の効果が生じる余地がなく、これに反する原告の荷渡指図書に基づき寄託者名義が変更し、新たに寄託契約が成立し、これにつき商慣習が確定していた旨の主張はいずれも根拠を欠く独断というほかなく、また、即時取得の要件とされる占有の承継は指図による占有移転では足りず、現実の引渡しを要するものと解され、いずれにせよ原告の主張は理由がないものである。

3  請求の原因4項の事実は、そのうち換価代金を「本件訴訟」の解決まで保管するとの点を除き、その余の事実はすべて認める。すなわち、右金員が山田直大において保管されるのは、東京地方裁判所昭和四九年(ワ)第一一〇四号動産引渡等請求事件が解決されるまでである。

第三、証拠関係(省略)

理由

一、売買による所有権取得の主張について

本件豚肉は三幸国際がシグマン・ミートから買入れ輸入したものであることおよび被告の発行した荷渡指図書により三幸国際が本件豚肉の引渡しを受けてその占有を取得したことはいずれも当事者間に争いがないが、証人富樫弘の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第一、同第二、同第六および同第七号証の一および二ならびに証人高木玲児および同富樫弘の各証言によれば、本件豚肉については荷送人であるシグマン・ミートに対し船荷証券が発行されていたところ、シグマン・ミートと三幸国際の取引条件は三幸国際において売買代金を決済したうえで右船荷証券を取得し、はじめて本件豚肉の所有権を取得する内容のものであつたが、三幸国際は右代金を決済することができず、結局、右船荷証券を取得することができなかつたこと、なお、前記のとおり三幸国際が本件豚肉の引渡しをうけたのは、たまたま右船荷証券が日本の取引銀行に到達するのが遅れていたところ、三幸国際が本件豚肉の海上運送人である被告に対し、船荷証券取得前のいわゆる保証渡しを懇請した結果、被告がこれに応じたもので、被告はその後保証渡しの責任を負つて、昭和四八年九月一四日シグマン・ミートに対し、右代金相当の損害金を支払い右船荷証券を取得したこと、以上の各事実を認めることができ、これが事実に反する証拠はなく、右事実によれば、三幸国際は本件豚肉につき所有権を取得したことがないことが明らかであり、従つて、前主である三幸国際が所有権を有しない以上、スギヤマ商店ならびに原告が売買により本件豚肉の所有権を順次承継して取得できないことは明らかであるから、この点に関する原告の主張は理由がないことに帰する。

二、即時取得による所有権取得の主張について

請求の原因3項の(1)の事実は当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第一一号証の一および二、同第一二号証の一ないし三および乙第八号証の一ないし三、いずれも官署作成部分の成立につき争いがなく、右成立に争いのない部分およびその形式、体裁からその余の部分もいずれも真正に成立したものと認められる甲第五および第六号証、証人杉山昇の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第一ないし第四号証、証人高木玲児の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第七号証の一および二、同第八号証、乙第三ないし第五号証および同第一一号証の一ないし三(ただし、甲第七号証の一および二と同第八号証はいずれも原本の存在を認め、かつ、その成立が真正なものと認めるものである)、証人塩浦俊雄の証言によりいずれも原本の存在およびその成立が真正なものと認められる甲第一三号証の一ないし三および同第一四号証の一ないし三ならびに証人杉山昇、同今給黎忠干、同高木玲児、同塩浦俊雄および同鈴木健雄の各証言(ただし、証人高木玲児の証言のうち後記の採用しない部分は除く)ならびに本件弁論の全趣旨を総合すれば以下の各事実を認めることができる。

前認定のとおり本件豚肉は三幸国際が輸入したものであるところ、本件豚肉を積載した船が昭和四八年五月七日横浜港に入港したこと、ところで、すでにこれに先立つ同月二日に三幸国際はスギヤマ商店に対し、本件豚肉を代金二、二八七万九、七一〇円で売渡す旨の売買契約を締結し、また、スギヤマ商店はさらに原告に対し、これを転売する話を進めていたため、右同日三幸国際から便宜、本件豚肉の荷役業務および入関手続等を三幸国際の委託をうけて代行する乙仲業者である二葉組宛の本件豚肉をスギヤマ商店に引渡すよう指示した荷渡指図書(甲第七号証の二参照)を発行してもらい、スギヤマ商店はこれを原告に示して同月四日原告との間に本件豚肉を代金一、九二三万九、〇〇〇円で売渡す旨の売買契約を締結したこと、本件豚肉は冷凍肉であるため、冷凍倉庫に搬入する必要があつたが、当時、京浜地区の冷凍倉庫が満杯の状態であつたため、入庫が困難な状況であつたところ、二葉組がようやく東洋水産川崎工場の冷凍倉庫に入庫できるよう手配したため、三幸国際は前認定のとおり船荷証券の到着前であつたが、被告に懇請して保証渡しをうけられるところとなり、二葉組を介して本件豚肉の引渡しをうけて、同月二四日東洋水産川崎工場に搬入して寄託したこと、そして、三幸国際は右入庫後、前記スギヤマ商店間の売買の履行として東洋水産川崎工場に対し、本件豚肉をスギヤマ商店に引渡すよう指示した荷渡指図書を発行し、東洋水産川崎工場は同年五月二九日右荷渡指図書の正本を受領し、右荷渡指図書の指示に従い、寄託者台帳等の寄託者名義を右同日をもつて三幸国際からスギヤマ商店に変更したこと、一方、スギヤマ商店もそのころ三幸国際から右荷渡指図書の副本(甲第七号証の一参照)を受領し、東洋水産川崎工場に名義変更の有無を問い合わせたが、その時点では荷渡指図書正本が未着のため名義変更手続はとられていなかつたが、すでに三幸国際から名義変更の連絡をうけているので、荷渡指図書が到着次第、スギヤマ商店に名義変更する旨の返事をうけたので、スギヤマ商店は東洋水産川崎工場宛の本件豚肉を原告に引渡すよう指示した同年五月三〇日付荷渡指図書(甲第四号証参照)を発行し、右同日右荷渡指図書の正、副二通および前記三幸国際発行の荷渡指図書副本(甲第七号証の一参照)を原告に交付するとともに、原告から前記の売買代金全額を約束手形で受領したこと、しかして、原告方の役員である訴外今給黎忠干が同年六月二日ころ右スギヤマ商店発行の荷渡指図書正、副二通ならびに三幸国際発行の荷渡指図書副本をいずれも東洋水産川崎工場に持参して直接手交したこと、そこで、東洋水産川崎工場ではスギヤマ商店発行の荷渡指図書の指示に従い昭和四八年五月三〇日をもつて、本件豚肉の寄託者台帳等の寄託者名義を原告と変更したこと、ところで、三幸国際とスギヤマ商店間の本件豚肉の売買代金は昭和四八年五月四日に金一、五〇〇万〇、〇〇〇円(スギヤマ商店振出の額面五〇〇万〇、〇〇〇円の約束手形三通、満期はいずれも同年八月中のもの)、同年六月一五日に差額関税分として金三四〇万〇、〇〇〇円(スギヤマ商店振出の小切手)、同月一六日に金五〇〇万〇、〇〇〇円(スギヤマ商店振出の額面二五〇万〇、〇〇〇円の約束手形二通、満期はいずれも同年六月中のもの)がそれぞれ支払われ、同年六月末までに右小切手および額面二五〇万〇、〇〇〇円の手形二通は決済されたが、三幸国際はその間の同年六月四日に本件豚肉の差額関税が金三四一万三、四〇〇円である旨所轄の税関から決定されたにも拘らず、これを納付しなかつたため、原告において同年七月末に本件豚肉を出庫しようとしたが、右不納付のために出庫できなかつたこと、そこで、原告は三幸国際に対し、再三にわたり差額関税の納付を要求したが、猶予を求めるのみで時日が経過したこと、かくするうち同年八月末に至りスギヤマ商店が倒産し、前記売買代金も一部未済のまま残され、また、三幸国際も同年一一月前後に倒産したこと、そして、その間に三幸国際は東洋水産川崎工場に対し、同年八月三〇日付で先に発行した荷渡指図書(甲第七号証の一参照)を撤回する趣旨のいわゆる赤字の荷渡指図書(乙第三号証参照)を発行し、これは同年九月初め東洋水産川崎工場に到着し、続いて、前認定のとおり被告が船荷証券を取得したため、三幸国際は被告の要求により東洋水産川崎工場宛の本件豚肉を被告に引渡すよう指示した同年九月一三日付荷渡指図書(乙第四号証参照)を発行し、そのころ右荷渡指図書の正本が東洋水産川崎工場に送付されたこと、しかしながら、東洋水産川崎工場では右の撤回および新らたな荷渡指図書を本件豚肉の寄託者名義の変更として取扱わなかつたこと、しかるところ、請求の原因4項記載のとおりの仮処分決定があり、かつ、その執行がなされ(この点は後記のとおり当事者間に争いがない)、本件豚肉はいずれにせよ出庫ができない状況となつたこと、以上の各事実を認めることができ、これが認定に反する乙第一七号の一ないし三および証人高木玲児の証言の一部は右認定に照らし採用できず、そのほか以上の認定を左右するに足りる証拠はなく、従つて、同じく右認定に反する東洋水産川崎工場への入庫前にスギヤマ商店が本件豚肉を二葉組を介して三幸国際から現実の引渡しを受けた旨の原告の主張事実はこれを認めるに足りる証拠がないものである。

そこで、右認定の本件荷渡指図書(三幸国際が当初東洋水産川崎工場宛発行したものおよびスギヤマ商店発行のもの、甲第四号証および同第七号証の一各参照)の意義ないしは法律上の性質、効力につき検討するに、成立につき争いのない乙第一八号証の一、証人富樫弘の証言によりいずれも原本の存在およびその成立が真正なものと認めることができる乙第一八号証の二および同第一九ないし第二一号証ならびに証人塩浦俊雄および同富樫弘の各証言によれば、昭和四八年当時、京浜地区の冷蔵倉庫業界では、寄託物の名義変更手続につき以下のような取扱いがかなり広く行われていたものと認めることができる。すなわち、寄託者がその所有にかかる寄託物たる冷蔵(ないしは冷凍)貨物を第三者に譲渡した場合、寄託者は受寄者(倉庫業者)宛の寄託物を右譲受人に引渡すよう指示した荷渡指図書を正本および副本の二通発行し、その正本を受寄者に直接手渡すかまたは郵送して、副本は譲受人にそれぞれ交付し、しかして、受寄者は右荷渡指図書正本を受領することにより、副本の呈示、照合を要することなく、直ちに寄託者名義を譲受人に変更し、以後、右譲受人を寄託者として取扱い、右譲受人がさらに第三者に譲渡する場合には新名義人において改めて右同様の荷渡指図書を発行し、順次名義変更がなされるものとし、従つて、右の名義変更後は譲渡人からの名義変更の撤回は認められず、その必要あるときは、新名義人から旧名義人への譲渡と同様な処理が必要とされていたこと、以上のように認めることができ、本件荷渡指図書もまさに右取扱いに依つたものと解される(なお、スギヤマ商店発行の荷渡指図書はその正、副二通とも原告に交付され、原告において受寄者たる東洋水産川崎工場に手交されたことは前認定のとおりであるが、証人今給黎忠干の証言によれば、右は本件豚肉とともに買受け、従つて、右荷渡指図書に本件豚肉とともに表示されているボストンバツド肉の出庫を急いでいたため、スギヤマ商店に代わり正本を持参したものであること、また、右の副本および前認定のとおり最初の寄託者たる三幸国際発行の荷渡指図書副本も同時に手交したのは、原告と東洋水産川崎工場間に従前寄託取引がなく面識がなかつたため、買受人たる原告を確認してもらうためなされたものと認められ、右に認定した通常の場合と特に異なる取扱いがなされたものではないものと解される)。しかして、右の乙第一八号証の一および二、同第一九ないし第二一号によれば、右の取扱いは昭和四九年に入つても続けられていたところ、寄託物の所有関係につき、二、三の紛争が生じたため、同年七月から一二月ころにかけて京浜地区の倉庫業界において、右のような寄託者名義変更手続は荷渡指図書に依ることなく、別途の名義変更通知書等に依るよう取扱いが変つてきたものと認めることができる。そこで、右認定の各事実に基づき検討するに、本件荷渡指図書は、寄託者が寄託物たる冷蔵ないしは冷凍貨物を倉庫に寄託したまま第三者に譲渡した際、右譲渡に伴い受寄者(倉庫業者)との間の寄託契約上の寄託者たる地位も右譲受人に譲渡しているものと解するのを相当とし、先に認定してきた本件荷渡指図書正本の受寄者への送付は寄託者から受寄者に対する右寄託者たる地位の譲渡通知としての意義を有していたものと解され、そうだとすれば、本件荷渡指図書は受寄者に対しいわゆる免責証券としての意義効力を有しているとしても、同時に右の寄託者たる地位の譲渡通知書としての効力も兼ね備えていたものと解され、むしろ、昭和四八年当時の京浜地区の冷蔵倉庫業界においては右通知書としての効力がより重視されていたものと解するのが相当である。

以上に述べてきたところによれば、スギヤマ商店は昭和四八年五月二九日原告は同月三〇日に順次、本件豚肉につき寄託者たる地位を取得し、右はいずれも本件豚肉につきいわゆる指図による占有移転の効果を有するものと解するのを相当とするところ、先に認定してきた各事実からすれば、本件豚肉等の冷凍貨物は倉庫業者の占有管理のもとで流通におかれ、取引の対象とされることがむしろ通常の業態であつたと推認されるので、右のような指図による占有移転をもつて即時取得の要件を充足するものと解しても、何等取引の安全を害する虞がないばかりか、むしろ、取引の実情に即しているものと解せられ、しかして、前認定の各事実によれば、スギヤマ商店および原告はいずれも本件豚肉を買受けるにあたり、前主たる三幸国際が無権利者であつたことを知らず、かつ、これを知らなかつたことにつき過失がなかつたものと推認され、そうだとすれば、スギヤマ商店は昭和四八年五月二九日に即時取得により本件豚肉の所有権を取得したものと認められ、原告はスギヤマ商店から右即時取得にかかる所有権を売買により承継して取得したものと認めるのが相当である。

三、請求の原因4項は、そのうち換価代金を本件訴訟の解決まで訴外山田直大が保管するとの点を除き、その余の各事実はすべて当事者間に争いがなく、これが事実によれば右換価代金が本件豚肉の代替物であることは当事者間に争いがないものであるから、原告は右換価代金につき所有権を有するものである。

四、以上の次第であるから、原告の本訴請求はこれを正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

物品目録

品名 アメリカ製生鮮冷凍豚肉(腰部)

数量 一、〇四七カートン

荷印 TU五〇五七 YOKOHAMA

銀行預金目録

一、 金一、七一三万二、四〇〇円

ただし、訴外山田直大が訴外株式会社三井銀行本店に昭和五〇年一月一三日、満期日を同年七月一三日として預け入れてある期間六ヶ月の定期預金または右満期日後更新にかかる同様の定期預金(元利金とも)

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